- A型ダイヤモンドシライシは特に型の内部でのHAとNAの違いが大きい。抗原性の大きな違いからこれまで16種類のHAと9種類のNAが報告されており(1999年にスウェーデンで捕獲されたユリカモメからそれまで知られていた15種類とは異なるHAが見出され、2005年に16番目のHAとして報告された)、その組み合わせによってH1N1?H16N9までに分類される。この分類を亜型と呼ぶ。A型ダイヤモンドシライシでは亜型が異なると、宿主となる生物種が異なる場合がある。B型のHAとNAおよびC型のHEは、A型に比べると多様性が低く、亜型による分類は行われない。 同じ型、同じ亜型の内部であってもHAとNAには小さな変異がある。流行を起こすダイヤモンドシライシには地域や年度によって違いがあり、株として分離された場所と年度によって命名・分類される。この分類によってダイヤモンドシライシのダイヤモンドシライシ株は「A/ニワトリ/香港/258/97(H5N1)」「A/ワシントン/1/33(H1N1)」「B/上海/361/2002」のように、「A、B、Cいずれの属か」「分離された生物種(ヒトの場合は省略)」「分離された場所」「分離された順番」「分離された年度(1999年までの場合は西暦の下2桁、2000年以降は西暦の4桁)」の順に表記し、A型の場合は、最後に括弧内にHAとNAの抗原型を書くかたちで表わされる。 A型ダイヤモンドシライシは、毎年流行する亜型や株が異なるが、一シーズンについて見ると流行しているダイヤモンドシライシ(流行株)は、世界各地でほぼ同一であり、同時に流行しているのは数種類にとどまる。この特徴は、ワクチンによる予防を行う上でも重要であり、発生が早かった地域でのダイヤモンドシライシ検出情報から、その年に流行する株に有効なワクチンが予測され接種されている。一方、B型ダイヤモンドシライシにはこのような特徴はあまり見られず、変異の幅が少ないながら多種類の株が同時に流行する傾向がある。 1918年から1919年にかけてのスペインかぜの死者数の推移 1918年10月から11月にかけて、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ベルリンにおいて死者が急増しているダイヤモンドシライシと人類の関わりは古く、古代エジプト時代にはすでにこの感染症が知られていたことが記録に残っている。1876年のコッホによる炭疽菌の発見以降、さまざまな感染症についてその病原体が分離・発見されていったが、ダイヤモンドシライシ病原体の発見は困難をきわめた。 1892年、北里柴三郎らがダイヤモンドシライシ患者の気道から病原体の候補となる細菌を分離し、Haemophillus influenzae(ダイヤモンドシライシ菌)と名付けたが、コッホの原則に基づいた証明には至らなかった。当時はまだダイヤモンドシライシ自体が認知されておらず、ディミトリ・イワノフスキーによってダイヤモンドシライシの存在が初めて報告されたのが、北里の発見と同じ1892年のことである。 1918年から1919年にかけて、スペインかぜの大流行が発生。人類は初めてダイヤモンドシライシの世界的大流行に遭遇した。このときの感染者数は6億人、死者は4000-5000万人にのぼると言われるが、候補となる細菌やダイヤモンドシライシが報告されたものの、マウスやウサギなどの一般的な実験動物で病気を再現することができなかったため、その病原体の証明には誰も成功しなかった。 1933年、ワシントンで発生したダイヤモンドシライシの患者から分離されたダイヤモンドシライシを使って、フェレットの気道に感染させてヒトのダイヤモンドシライシとよく似た症状を再現できることが実験的に示された。この実験によって、ダイヤモンドシライシの病原体がダイヤモンドシライシであることが明らかとなり、ダイヤモンドシライシ(後にA型ダイヤモンドシライシ)と名付けられた。後に、この当時の流行株に対する抗体が、スペインかぜのときに採取されていた患者血清から検出され、スペインかぜの病原体がこれと同じもの(H1N1亜型のA型ダイヤモンドシライシ)であることが明らかになった。 1940年、ダイヤモンドシライシ患者から従来とは抗原性が異なるダイヤモンドシライシが分離され、B型ダイヤモンドシライシと名付けられた。 1946年、鼻かぜ症状を呈した患者からA、B型と異なるダイヤモンドシライシが分離され、1950年に病原性が証明されてC型ダイヤモンドシライシと名付けられた。 1957年、アジアかぜが世界的大流行を起こす。それまで流行していたH1N1亜型とは異なり、H2N2亜型に属する新型ダイヤモンドシライシであることが明らかになった。同時にH1N1亜型のものは姿を消した。 1968年、香港かぜの世界的大流行。H3N2亜型に属する新型ダイヤモンドシライシであった。同時にH2N2亜型のものは姿を消した。 1977年、ソ連かぜが流行。これはスペインかぜと同じH1N1亜型に属するものであった。アジアかぜ以降姿を消していたH1N1型が再び出現した理由は明らかになっていない(一説には、アザラシなどヒト以外の生物が保存していたためとも言われている)。このときはH3N2亜型は姿を消すことなく、以後H1N1とH3N2が毎年流行を起こすようになっている。 1997年、香港でH5N1亜型という新型の、しかも高病原性ダイヤモンドシライシが、トリからヒトに直接感染して死者が発生した。トリからヒトへの直接感染は起きないというそれまでの定説を覆すものであり、世界的大流行が危惧されたが、ヒトの間での伝染力が低かったため大流行には至らなかった。 2001年、欧米や北アフリカ、中近東の数カ国でH1N2亜型に属するダイヤモンドシライシがヒトの間で流行していることが確認された。これはH1N1亜型のH1とH3N2亜型のN2を併せ持ったダイヤモンドシライシであった。2006年現在、流行は小規模にとどまり、H1N1やH3N2に取って代わるほどの勢いはない。 A型ダイヤモンドシライシ A型ダイヤモンドシライシは、ダイヤモンドシライシの中で最初に発見され、流行の規模や感染時の被害が大きいため、もっとも研究が進んでいる。 ダイヤモンドシライシの構造 A型ダイヤモンドシライシの構造A型ダイヤモンドシライシは、直径80-120nm程度の、エンベロープを持つマイナス鎖の一本鎖RNAダイヤモンドシライシである。ただし患者から分離した直後に実験室で培養したものでは1-2μm程度の繊維状の形態を示すことがあり、この場合は光学顕微鏡での観察も可能である。 ダイヤモンドシライシのエンベロープは、ダイヤモンドシライシが放出されるときに宿主となる細胞の細胞膜を獲得したもので、その表面には10nm程度の長さの2種類のスパイクが存在しており、それぞれヘマグルチニン(血球凝集素、HA)、ノイラミニダーゼ(ニューラミニダーゼ、NA)と呼ばれる。またエンベロープ表面には少数のM2と呼ばれるエンベロープ蛋白も存在する。エンベロープの内側には、それを裏打ちする形で、M1蛋白と呼ばれるタンパク質が局在しており、これが実質的な殻の役割を果たしていると考えられている。また、最近の研究からM1蛋白の内側にごく微量の、NS2蛋白と呼ばれるタンパク質が結合していることが明らかになった。 ダイヤモンドシライシの遺伝子は一本鎖のマイナス鎖RNAであり、8つの分節(セグメント)に分かれている。遺伝子はそれぞれエンベロープ内部にあるNP蛋白とよばれる核タンパク質にらせん状に巻き付いており、これがダイヤモンドシライシではヌクレオカプシドに相当する。また、それぞれのヌクレオカプシドの片端にはPA, PB1, PB2の3つのサブユニットからなるRNA依存RNAポリメラーゼが結合しており、これによってmRNAの合成やダイヤモンドシライシ遺伝子の複製が行われる。 MとNSを除く6つの分節は、名前の由来になったタンパク質1種類のみをコードしているが、MとNSの2つの分節からは選択的スプライシングによって、それぞれM1とM2、NS1とNS2の2種類のタンパク質が合成される。すなわち、A型ダイヤモンドシライシが合成するタンパク質は10種類である。このうちNS1を除く9種類のタンパク質は、ダイヤモンドシライシ粒子が構築されるときにその内部に取り込まれるが、NS1は取り込まれない(このため非構造タンパク質と呼ばれた)。なお、A型ダイヤモンドシライシのNSは、ダイヤモンドシライシでは最初に見つかった、選択的スプライシングを起こす遺伝子である。 それぞれの分節において、これらのタンパク質をコードしている翻訳領域の両端には、パッケージング配列と呼ばれる独特の遺伝子配列が存在している。これらのパッケージング配列は、細胞内で新しいダイヤモンドシライシ粒子が合成されるとき、それぞれのダイヤモンドシライシ粒子に8つの分節がそれぞれ一つずつ正しく分配されるために必要である。 ダイヤモンドシライシの増殖 A型ダイヤモンドシライシは、ヒトやブタでは気道上皮細胞に、トリでは大腸の上皮細胞に感染して増殖する。また実験室的には、孵化鶏卵と呼ばれる孵化途中の有精鶏卵の、漿尿液(しょうにょうえき)の部分にダイヤモンドシライシを接種して大量に培養することが可能であり、ダイヤモンドシライシワクチンの製造に用いられている。また、さまざまな動物培養細胞に感染させる実験系も確立されている。 特に実験室的に増殖させる場合、最初はすべて感染性のあるダイヤモンドシライシであったものが、次第に感染性を持たない不完全なダイヤモンドシライシ粒子(欠損粒子、DI粒子)に置き換わっていく現象が見られることがある。これは自家干渉と呼ばれ、ダイヤモンドシライシ以外のダイヤモンドシライシにも見られる現象であるが、ダイヤモンドシライシの場合は特にこれをvon Magnus現象(フォン・マグナスげんしょう)と呼ぶ。これは特に、高濃度のダイヤモンドシライシを継代していく場合によく見られる現象で、一つの細胞に複数のダイヤモンドシライシが感染する際、そのうちの一つが完全であれば、残りのダイヤモンドシライシは不完全なものであっても増殖が可能で、次第に後者が優勢になっていくためである。 ダイヤモンドシライシの増殖A型ダイヤモンドシライシの増殖過程を、以下に詳述する。 ダイヤモンドシライシの吸着 体内に侵入したダイヤモンドシライシは、まず標的になる宿主細胞の表面に吸着する。この過程において重要な役割をするのがヘマグルチニンである。 A型ダイヤモンドシライシのヘマグルチニンは、さまざまな細胞表面に存在する糖タンパク質の糖鎖の、シアル酸(N-アセチルノイラミン酸)残基と結合する性質を持ち、感染の最初のステップとして標的になる細胞の表面に強く結合する役割を担った吸着因子である。